今日は僕の研究テーマである原子物理と、人生そのものの考え方を絡めたものを読者の皆さんに提供したい。
原子物理の世界には縮退という性質がある。原子というのは、100億分の1mというものすごい小さなスケールの話であるが、しかしその原子というものが、1兆×1000億個集まったものを1つの単位として(これを1molという)、このユニットが集まることで我々の目に見える物質世界の全てを構成している(もちろん、空気とか、宇宙とかも含めて全部)。逆に辿ると、私たちの身の回りの物質をどんどん小さく分割して1個の原子という小さい世界にたどり着くと、この世界では僕たちの世界では成り立たないことも起こる。その性質の一つが縮退というものだ。原子の中には沢山の電子がいるが、その電子は好き勝手な場所にうじゃうじゃいるのではなく、一個一個の電子にはこの辺りまでがテリトリーという電子の家のような区間が定められている(これが電子軌道というやつである)。電子の位置を正確に知ることは不確定性原理というまた別の制約があってできないが、それでも、電子が移動できるのはこの辺りの領域までという制限がかけられている。そしてそこをわかりやすく電子の家ということにしておこう。(原子物理を知っている方向けに言うと、1sとか2p軌道そのもののことをここでは家と言っている。1s軌道なら綺麗な球状の空間全部が1sにいる電子の家になるし、2p軌道なら、8の字型の空間全てが2p軌道の電子の家になる)電子は基本的にそれぞれの家の場所のどこかに存在しているが、はっきりその座標を知ることができないというのが不確定性原理である。しかし基本的に電子は自分の家の外に出ることはできない。隣の家に移動するには、となりの家の共鳴周波数と同じEnergyの電磁波を浴びないと電子は移動できない。
そしてそこまでは水素原子のシュレディンガー方程式の解であるラゲールの陪多項式とルジャンドル陪関数の積で説明することができる。そしてこの軌道を決めるのは軌道量子数lと磁気量子数mというやつで、この数字が電子の家のサイズと形を決めているのだが、基本的にはこれらは水素原子においては縮退と言って重なっている。つまり、大きさと形の違う家は重なっているのだ。(量子力学を知っている人向けにいうと、主量子数nで定まる準位は独立していて重なっていないが、さらにそこから一個下の構造を考えると微細構造となり、ここではs軌道やp軌道は縮退している。この時スピン軌道相互作用や外部磁場、外部電場は考えていないことに注意)しかしそれらは電場(シュタルク効果)や磁場(ゼーマン効果)を受けることで重なりは解け、独立した家が現れてくる。何が言いたいかというと、人間の可能性もそうで、自分にとっての人生の分岐点は常に縮退している可能性があるということだ。
例えば図で言うところのP stateというところには、-1,0,1という3つの磁気量子数mがの作る家が重なっているがこれは磁場をかけると重なりがとけ、それぞれ独立した家になる。さらに上のd stateというところを考えると、-2,-1,0,1,2という5つの家が重なっているが、これも磁場をかければ重なりがとけ、独立した5個の家になる。重なりが解けることを縮退が解けるというが、人生の選択肢と思えば、外部の要因によって人生の分岐点はどんどん広がっていく。
さらに、電子自身はスピンという上向きと下向きの量を持っていて、これを用いてさらに縮退が解けることもある。これは電子自身の性質によるものであるから、外部の相互作用でなく内部の相互作用(内部自由度)と呼ばれる。
上の図を見ていただければ、わかるが、spinによっても分裂は起こる。spinの上向きや下向きというのは他の電子との相互作用にも影響を受けてひっくり返ったりする。つまり、自分自身の変化によっても人生の帰路は変わるということを電子の世界が教えてくれているように感じる。
このように考えてみると、僕たちの生きる世界と電子の住んでいる世界というのはなんとなく共通性があるように感じる。もし僕たちがたった一個の電子とするならば、他の電子や外部の場から影響を受けて次々に縮退が解けて違う家に移ったりしているのは、まさに僕たちの人生に似ている。他者や外界からの影響を受けて人生どんどん分岐していく。
今、目の前が行き詰まったように感じている人も、自分の可能性に気づけていない人も、それはもしかしたらまだ縮退しているだけかもしれない。それ相応の周波数を貰えば簡単に縮退は解ける。
僕たちは無限の可能性に気づくべきだ。
自分達が可能性の塊であることを信じるべきだ。
ここまで読んでくれてありがとう。それではまた会おう。